東京地方裁判所 平成11年(ワ)13592号 判決 2000年5月30日
原告
株式会社エービーシー商会
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
土岐敦司
被告
理工産業株式会社
右代表者代表取締役
【B】
右訴訟代理人弁護士
笠原静夫
主文
一 被告は、原告が商品名フェロコンハードの製造販売及び施工をするに当たり、第三者に対して、別紙目録(3)記載の内容の各事実を告知し、又はこれを流布してはならない。
二 被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成一一年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、第二項及び第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告が商品名フェロコンハードの製造販売及び施工をするに当たり、第三者に対して、別紙目録(1)記載の内容の各事実を告知し、又はこれを流布してはならない。
二 被告は、その費用をもって、原告に対し、日本経済新聞の最終面に、別紙目録(2)記載の謝罪広告を同目録記載の方法で一回掲載せよ。
三 被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成一一年六月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、床材の製造販売及び床仕上げ工事の施工の請負を業として行っている原告が、競争関係にある被告が原告の取引先に対して送付した書面に記載した別紙目録(1)記載の事実は、いずれも虚偽の事実であり、右事実の告知によって原告の信用が毀損されたと主張して、不正競争防止法に基づき、被告に対し、①右虚偽の事実の告知行為の差止め、②信用回復措置としての謝罪広告の掲載及び③信用毀損による損害の賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実等(括弧内で証拠を摘示しない事実は当事者間に争いがない。)
1 原告と被告は、いずれも床材の製造販売及び床仕上げ工事の施工の請負を業として行っており、競争関係にある。
2 原告は、大阪市が発注者となった大阪市中央卸売市場の建設工事において、第一期工事の床仕上げ工事(施工面積二万二九五五㎡、平成六年着工、同九年九月竣工。以下「本件工事」という。)を元請けである大成建設株式会社他によるジョイント・ベンチャー(以下「大成JV」という。)から受注した。
3 被告は、原告が本件工事において販売施工した床材である商品名フェロコンハードに関して、次のとおり書面を送付した(甲一、二、甲三の一、甲三の二、甲一一、弁論の全趣旨。以下、次の(一)ないし(四)の書面に記載されている事実をまとめて「本件各事実」という。)。
(一) 被告は、大阪市経済局企画課及び市場施設課並びに大成JV建設工事現場事務所副所長に対して、平成八年九月四日付けの書面を送付したが、それには、「ABC商会が現場で使用した床材の荷姿は、正しくフェロコンハードですが、其の中身はフェロコンハードとは似ても似つかない異質なものであり、其の中身は弊社が試験施工に使用したインクリートと同じものです。」、「公設市場の中で試験施工をふまえての市場建設現場内の工事でこのような行動を取ることは公序良俗の理念を汚す悪質な不正行為であると判断しています。」と記載されていた。
(二) 被告は、大阪市都市整備局長、大阪市経済局市場施設課、大阪市都市整備局企画課、安井建築設計事務所大阪事務所設計部統括主任及び大成JV建設工事現場事務所副所長に対して、平成九年一〇月一三日ころ、書面を送付したが、それには、「現場で施工したABC商会のフェロコンハードの荷姿は正しくフェロコンハードでしたが其の中味は骨材として全々金属粉は使用されていません。弊社が試験施工に使用した骨材と同じく無機質系硬質砕石粒(エメリー)であり、其の大きさや形も同じであり、混和に使用するセメント量もほとんど同じです。」、「フェロコンハードも・・・私のアイデアであり、研究して製作したのも私自身です。」、「いろいろなハケ目引きが出来ない」、「雑菌が発生し病原菌も発生します。」、「市場の床仕上げに金属骨材の入った床材を勧めたABC商会は基本的に間違っています。」と記載されていた。
(三) 被告は、大阪市中央卸売市場建設工事の第二期工事を請け負った鹿島建設株式会社他によるジョイント・ベンチャー(以下「鹿島JV」という。)の大阪市中央卸売市場工事事務所長に対して、平成一〇年九月三〇日付けの書面を送付したが、それには、「第一期工事大成JVの床表面は、仕上げのハケ目が荒過ぎたのと、小々古くなったのが重なって、今では肉眼でも分かる様になっています。エメリー系の骨材が床表面に無数に露呈しています。」、「完全特許になった后で、調査の上で特許料を請求するかなあと思っている段階です。」と記載されていた。
(四) 被告は、大阪市都市整備局企画課建築担当主査、株式会社安井建築設計事務所大阪事務所設計部統括主任及び鹿島JVの大阪市中央卸売市場工事事務所長に対して、平成一〇年一〇月二八日付けの書面を送付したが、それには、「フェロコンハードの荷袋の中に主成分とは違う別の原料を入れることはけしからんことです。床材の製造コストも下り利益も上ります。これは完全な詐欺行為です。」と記載されていた。
4 原告は、被告に対して、平成一〇年一一月二〇日及び同一一年一月七日の二回にわたって、本件各事実を記載した書面を送付したことに関し、一週間以内に訂正の文書を送付先に送るよう請求したが、被告はこれらの請求にいずれも応じなかった。
5 平成一一年八月から同一四年夏にかけて、大阪市中央卸売市場の第三期工事(施工予定面積三万五一二一㎡)が実施される予定である。
二 争点
1 被告が本件各事実を記載した書面を送付した行為が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為かどうか
(原告の主張)
被告が製造販売する床材であるインクリートは、エメリー(無機質系硬質砕石粒)系の骨材を使用するものであって、金属骨材を使用していないのに対し、原告が製造販売し、本件工事において施工したフェロコンハードは、金属骨材が含まれているものであり、エメリー系の骨材を使用していないのであるから、インクリートとフェロコンハードは同じものではない。
フェロコンハードは原告が開発した商品であり、被告代表者が右開発に関与したことはない。
フェロコンハードは、施主の要求に応じて、色々なハケ目で施工することができる。
フェロコンハードにおいて、雑菌や病原菌が発生することはない。
フェロコンハードが被告が出願した特許を侵害する事実はない。
以上のように、本件各事実はいずれも虚偽であり、被告が本件各事実を記載した書面を送付した行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為である。
(被告の主張)
本件各事実は、表現に若干誇張した面が存するものの、基本的に全て真実である。
原告は、フェロコンハードとはいえない床材を標準タイプのフェロコンハードの荷袋に入れて現場に持ち込み、単価の低い鉱物系骨材を、あたかも単価の高い金属系骨材である標準タイプのフェロコンハードであるかのように見せかけていたのであるから、原告に不正行為があったというべきである。
2 原告の損害
(原告の主張)
被告によって本件各事実が告知されたために、原告の担当者は、営業活動の時間を被告の行為の対応のために費やさざるを得なかったのであり、また、取引先には原告がトラブルを抱えているとの認識を与えてしまった。
このように、被告による本件各事実の告知によって、原告の営業上の信用が毀損されたのであり、右信用の毀損による原告の損害は、金五〇〇万円を下らない。
(被告の主張)
原告の主張を争う。
3 原告の営業上の信用を回復するのに謝罪広告が必要かどうか
(原告の主張)
原告は、被告の本件各事実の告知によって害された原告の営業上の信用を回復するために、大阪市経済局をはじめ関係各方面に対して、原告の正当性を明らかにする書面を提出し、原告の本社のフェロコンハードの担当者を東京から何度も大阪に出張させて、フェロコンハードに関する原告の主張が正当であるとの説明を行った。
しかし、これらのみでは原告の信用が回復したとは言い難く、金銭による損害の賠償によっても、原告の営業上の信用の完全な回復は期待できないから、原告の営業上の信用を回復するために謝罪広告が必要である。
(被告の主張)
原告の主張を争う。
第三争点に対する判断
一 証拠(甲九、一〇、一二、一四、一五、一七、二三、二四、乙一、八、九、一五、乙一六の一、二、乙一七、証人【C】、証人【D】、被告代表者)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
1(一) 本件工事に際して、床材の適応性を判断する資料を収集するため、実際に床材を試験的に施工して、その性能を見る必要があった。そこで、大阪市中央卸売市場、大阪市都市整備局営繕部及び安井・大建・新日本設備設計共同企業体は、平成五年二月一九日から同月二一日にかけて、本件工事のための床材の試験施工(以下「本件試験施工」という。)を行い、原告と被告は、これに参加した。
(二) 本件試験施工において、原告は、原告が製造販売するフェロコンハードを施工し、被告は、被告が製造販売するインクリートを施工した。
(三) 本件試験施工において原告がフェロコンハードを施工した床に亀裂が発生したり、骨材が露出するなどの支障が生じたことはなく、本件工事についても問題が発生したことはない。
2(一) フェロコンハードは、原告において、昭和五〇年から同五二年ころにかけて開発された商品である。
(二) 本件試験施工が行われた平成五年当時、フェロコンハードには、金属骨材を主成分とする標準タイプのほかに、非金属の骨材を使用した非磁性タイプがあり、平成六年以降においても、フェロコンハードには、標準タイプと非磁性タイプがある。これらには、天然の鉱物骨材は全く使用されていない。
(三) フェロコンハードに抗菌剤を使用した場合と使用しない場合を比較した抗菌試験において、雑菌の繁殖には差がないとの結果が出ている。
(四) フェロコンハードの施工に当たっては、骨材の大きさ、散布量その他の工法を調整することによって、施主の要望するハケ目を出すことができ、原告は、本件工事に関し、本件試験施工の後に行われた平成七年九月の試験施工において、ホウキ引き仕上げ、ハケ引き仕上げ(荒目)、ハケ引き仕上げ(細目)の三種類のハケ目仕上げでフェロコンハードを施工した。そのフェロコンハードの組成は、本件工事に使用されたものと同じであった。
(五) 本件工事に使用されたフェロコンハードの骨材中、金属骨材の占める割合は、重量比で二九・六%(上まきと下まきの平均)、容積比で一〇%程度であり、右フェロコンハードには天然の鉱物骨材は全く使用されていない。
本件試験施工に使用されたフェロコンハードの骨材中に金属骨材の占める割合は、本件工事に使用されたフェロコンハードよりも大きく、約九〇パーセントが金属骨材であった。
3(一) 被告代表者は、原告の社員であったが、昭和三七年に退社した。
(二) 被告が製造販売している床材であるインクリートには、天然の鉱物骨材であるエメリーが使用されており、金属骨材は含まれていない。
(三) 被告代表者は、コンクリート床表面形成工法に関する特許(特開平九─七二〇七七)を出願(以下「本件出願」という。)しているところ、その特許請求の範囲請求項1は「床コンクリート打込み後、該コンクリート表面が生乾き状態下で前記コンクリート表面に粉砕した硬質骨材粒を散布し、表面を擦って、前記硬質骨材を表層部に埋没させ、該表面を刷毛引きして硬質骨材入り表層を形成することを特徴とするコンクリート床表面形成工法。」というものである。
なお、被告は、本件試験施工は、本件工事において使用する床材として、原告のフェロコンハードか被告のインクリートのいずれを採用するかを決定するために行われた旨主張し、被告代表者尋問の結果中には、右主張に沿う部分があるが、証拠(甲一四、一七、二四、証人【C】)に照らすと信用できず、右主張は採用できない。また、被告は、本件試験施工の結果、原告のフェロコンハードは、時間の経過により、原材料の金属骨材が床から剥離し、市場において扱われる魚介類等に付着混入するなどの危険性があるとの欠点が指摘された旨主張し、被告代表者尋問の結果中には右主張に沿う部分があるが、証拠(甲二四、乙一)に照らすと信用できず、右主張は採用できない。
二 争点1について
1 前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3(一)の事実(平成八年九月四日付けの書面の送付)について
(一) 「ABC商会が現場で使用した床材の荷姿は、正しくフェロコンハードですが、其の中身はフェロコンハードとは似ても似つかない異質なものであり、其の中身は弊社が試験施工に使用したインクリートと同じものです。」証拠(甲一)によると、右事実は原告が本件工事において施工したフェロコンハードについてのものであると認められる。
前記一の事実によると、原告が本件工事において施行したフェロコンハードには金属骨材が含まれているが天然の鉱物骨材は含まれておらず、これに対して、被告の床材であるインクリートは天然の鉱物骨材が使用されており、金属骨材は含まれていないのであるから、両者は同じものではない。
また、前記一の事実によると、原告が製造販売していた「フェロコンハード」には、金属骨材を主成分とするものの他に非金属の骨材を使用したものがあるから、原告が本件工事に使用したフェロコンハードが金属骨材を主成分とするものでないとしても、それを「フェロコンハードとは似ても似つかない異質なもの」と断定することはできない。
したがって、右事実には、虚偽の事実が含まれているというほかなく、右事実を記載した書面を送付した行為は、虚偽の事実を告知した行為であるということができる。
(二) 「公設市場の中で試験施工をふまえての市場建設現場内の工事でこのような行動をとることは公序良俗の理念を汚す悪質な不正行為であると判断しています。」前記一の事実に証拠(甲一)を総合すると、右事実は、右(一)の事実に続いて記載されており、右(一)の事実を前提として、原告が、本件試験施工では、金属骨材が主成分であるフェロコンハードを使用したにもかかわらず、本件工事では、荷姿はフェロコンハードであるが、中身はフェロコンハードではない、被告のインクリートと同じ床材を使用したとして、これを「公序良俗の理念を汚す悪質な不正行為と判断した」と述べているものと認められる。
しかし、右(一)の事実には、右(一)のとおり虚偽の事実が含まれているというほかない。
また、前記一の事実によると、本件試験施工は、原告のフェロコンハードか被告のインクリートのいずれを採用するかを決定するために行われたものではなく、床材の適応性を判断する資料を収集するために行われたものであるから、原告が使用したフェロコンハードの成分が本件試験施工と本件工事で異なっていたとしても、そのことが直ちに非難されるべき事実であるということはできないし、発注者である大阪市や元請けである大成JVが原告による本件工事の施工について床材の成分が本件試験施工と異なることを問題とした事実を認めることもできない。
したがって、原告が使用したフェロコンハードの成分が本件試験施工と本件工事で異なっていたとしても、そのことを「公序良俗の理念を汚す悪質な不正行為」であるということはできず、その他、原告に、被告が記載しているような「公序良俗の理念を汚す悪質な不正行為」が存するとは認められない。
右事実は、被告の判断という体裁をとっているものの、読む者をして、原告に、実際には存しない「公序良俗の理念を汚す悪質な不正行為」が存したという印象を抱かせるものであるから、右事実を記載した書面を送付した行為は、虚偽の事実を告知した行為であるということができる。
(三) そして、右(一)(二)の各事実は、一体として、原告の営業上の信用を害する事実であるということができるから、被告がこれらの事実を記載した書面を送付した行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為であるということができる。
2 前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3(二)の事実(平成九年一〇月一三日ころの書面の送付)について
(一) 「現場で施工したABC商会のフェロコンハードの荷姿は正しくフェロコンハードでしたが其の中味は骨材として全々金属粉は使用されていません。弊社が試験施工に使用した骨材と同じく無機質系硬質砕石粒(エメリー)であり、其の大きさも形も同じであり、混和に使用するセメント量もほとんど同じです。」証拠(甲二)によると、右事実は、原告が本件工事において施工したフェロコンハードについてのものであると認められる。
前記一の事実によると、原告が本件工事で施工したフェロコンハードには、金属骨材が含まれており、エメリーを含む天然の鉱物骨材は含まれていないのであるから、右事実には、虚偽の事実が含まれているというほかない。
証拠(甲二)によると、右事実は、原告が、本件試験施工では、金属骨材からなるフェロコンハードを使用したこと、本件工事で不正行為があったことを述べた後に続いて記載されていると認められ、原告が使用した床材の成分が本件試験施工と本件工事で異なっており、本件工事で使用されたものは、荷姿はフェロコンハードであるが、その中味は全く金属骨材が使用されておらず、被告が本件試験施工に使用した床材と同じものであることを不正行為であると断ずる一連の記述の一部であるから、右事実には、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実が含まれているということができる。
(二) 「フェロコンハードも・・・私のアイデアであり、研究して製作したのも私自身です。」証拠(甲二)によると、右事実は、「私は元はABC商会の古い社員でした。ABC商会時代は床材の製造と工事と総合的な技術の責任者でした。」との記載に続いて記載されているものと認められる。
前記一の事実によると、フェロコンハードは昭和五〇年から同五二年ころに原告において開発された商品であると認められるから、昭和三七年に退社した被告代表者が原告においてその開発に関与することは有り得ないし、その他の形で被告代表者がフェロコンハードの開発に関与したことを認めるに足りる証拠もないから、右事実は虚偽であるというほかない。
しかし、右事実の告知が直ちに原告の営業上の信用を害するとは認められない。
(三) 「いろいろなハケ目引きが出来ない」
証拠(甲二)によると、右事実は「・・・現場で使用されたフェロコンハードや理工のインクリート・プレミックスタイプの床材は目的によってはかなり良い床材だと思っています。ただ大きな欠点が一つあります。真似だからしょうがないことですがABC商会は其のことに気付いていませんでした。其れはいろいろなハケ目引きが出来ないことです。」との表現の一部であり、原告が本件工事において施工したフェロコンハードについてのものであると認められる。
前記一の事実によると、フェロコンハードを施工する際には複数の種類のハケ目仕上げをすることができるものと認められるから、「いろいろなハケ目が出来ない」と断定している右事実は虚偽というほかなく、原告の営業上の信用を害するものであると認められる。
(四) 「雑菌が発生し病原菌も発生します。」
証拠(甲二)によると、右事実は、「床表面を流れる水は清水ではありません。汚水です。其の内に床表面が臭くなってきます。夏期は特に臭が強くなります。当然なことながら雑菌が発生し病原菌も発生します。この様な欠点は理工産業のインクリート・プレミックスにも現場で使用したフェロコンハードにも内蔵されています。」という表現の一部であり、床材一般の問題点の指摘として記載されたものであると認められる。
前記一の事実によると、フェロコンハードが特に雑菌や病原菌が発生しやすいということはないものと認められるが、右事実は、右認定のとおり床材についての一般論と解することができるから、虚偽であるとまでいうことはできない。
(五) 「市場の床仕上げに金属骨材の入った床材を勧めたABC商会は基本的に間違っています。」証拠(甲二)によると、右事実は「水産棟の床仕上げと言っても乾物関係をとり扱う床仕上げと生物関係をとり扱う床仕上げとは其の機能性は基本的に違うと思っています。水産棟の第一期工事は乾物関係のとり扱いが主体でした。」との部分に続けて記載されたものであり、市場の床仕上げに金属骨材入りのフェロコンハードを勧めた原告を非難することを内容とするものであると認められる。
証拠(甲一四)によると、水産棟の塗床材については、特記仕様書において、「ステンレスチップ入り」との指定がされているものと認められること、前記一の事実によると、本件試験施工及び本件工事において金属骨材の入った床材によって施工されたからといって特に問題が発生していないものと認められることからすると、市場の床仕上げに金属骨材入りのフェロコンハードを勧めた原告を非難することを内容とする右事実は、虚偽であるというほかなく、原告の営業上の信用を害するものであると認められる。
(六) 被告が右(一)、(三)、(五)の事実を記載した書面を送付した行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為であるということができる。
3 前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3(三)の事実(平成一〇年九月三〇日付けの書面の送付)について
(一) 「第一期工事大成JVの床表面は、仕上げのハケ目が荒過ぎたのと、小々古くなったのが重なって、今では肉眼でも分かる様になっています。エメリー系の骨材が床表面に無数に露呈しています。」証拠(甲三の一)によると、右事実は本件工事におけるフェロコンハードによって仕上げられた床についてのものであると認められるところ、前記一の事実によると、本件工事において施工されたフェロコンハードにはエメリー系の骨材は使用されていない上、本件工事に問題が発生したことはないものと認められるから、右事実は虚偽の事実を含むものというほかない。そして、右事実は、原告が施工した工事の品質が劣る趣旨のものであるから、原告の営業上の信用を害するものであると認められる。
(二) 「完全特許になった后で、調査の上で特許料を請求するかなあと思っている段階です。」証拠(甲三の二)によると、右事実は、「第二期建設工事の床仕上げに就いては、私はまだ調査していません。必要になった場合に、調査すればよいと思っています。又第二期建設工事の床仕上げを、現在のところ告訴の対称にはしていません。」との表現に続けて記載されたものであり、右事実の後には、「どうなるかは、今后の川の流れしだいです。」と記載されていることが認められる。
そして、このことに前記一の事実を総合すると、右事実は、本件出願に係る特許が登録され、第二期工事についての原告の床仕上げを調査した結果、その工法が右特許の技術的範囲に属すると判断された場合には、ライセンス料を請求しようと思っている旨の記載であると解することができる。そうすると、右事実が虚偽であるとまでいうことはできない。
(三) 被告が右(一)の事実を記載した書面を送付した行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為であるということができる。
4 前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3(四)の事実(平成一〇年一〇月二八日付けの書面の送付)について
(一) 「フェロコンハードの荷袋の中に主成分とは違う別に原料を入れることはけしからんことです。床材の製造コストも下がり利益も上がります。これは完全な詐欺行為です。」証拠(甲一一)によると、右事実は、フェロコンハードの主成分をステンレス系合金骨材であると断定した上で、このような金属骨材が過半数量含まれている必要があるとの記載の後に記載されているもので、以上の条件を満たしていない床材はフェロコンハードでないから「けしからん」と非難するとともに、不当な利益を得ていて、詐欺行為であると述べているものと認められる。
しかし、前記一の事実によると、フェロコンハードには金属骨材を使用しないものが存在しているから、金属骨材が過半数量は含まれていないからといって、フェロコンハードではないということはできない。
また、証拠(乙一〇の一、三)及び弁論の全趣旨によると、金属骨材を含む量が少ないからといって、必ずしも、床材の製造コストが下がることはないと認められる。
そうすると、右事実は、虚偽の事実に基づいて原告の行為を非難し、「完全な詐欺行為です。」と断定したものであって、虚偽であるというほかなく、原告の営業上の信用を害するものであると認められる。
(二) したがって、被告が右(一)の事実を記載した書面を送付した行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為であるということができる。
5 以上の被告が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した行為は、不正競争防止法二条一項一三号が定める不正競争行為であると認められる。
6 被告は、本件訴訟において、表現上若干の誇張はあるが、本件各事実はいずれも虚偽ではないと主張している。また、証拠(甲一三、被告代表者尋問)によると、被告は、原告が本件訴えを提起した後においても、大阪市長並びに株式会社安井建築設計事務所及び鹿島建設株式会社の代表取締役に対し、原告による本件工事の施工に至る経過を非難する書面を送付していることが認められる。
これらの事実に前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)4、5の事実を総合すると、原告がフェロコンハードを製造販売及び施工するに当たり、被告が別紙目録(3)記載の事実を第三者に対して告知又は流布するおそれがあるというべきである。
三 争点2について
前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3の事実に前記二で述べたところを総合すると、被告による前記二認定に係る原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知は、大阪市、建築設計事務所、元請けなどとの関係で、原告の信用低下を生じさせたものと認められる。なお、証人【D】の証言によると、原告は、大阪市中央卸売市場の第二期工事の床仕上げ工事のうち約一万六〇〇〇平方メートルを請け負うことができなかったことが認められるところ、そのことと被告の右信用毀損行為との因果関係は、右証言によるも必ずしも明らかではなく、他に右因果関係を認めるに足りる証拠はない。
また、証拠(甲七、一六、証人【D】)及び弁論の全趣旨によると、被告による本件各事実の告知に対し、原告において反論の書面を作成したこと、原告の東京及び大阪の営業担当者が関係各所に出向いて釈明を行ったこと、以上の事実が認められ、そのために費用を要したものと推認される。
以上の原告の損害を金銭に換算すると、金二〇〇万円が相当であると認められる。
四 争点3について
前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)3の事実によると、本件各事実の告知の相手方は、大阪市、建築設計事務所、元請けなどの大阪市中央卸売市場の工事関係者であると認められ、これら以外の広い範囲の者に対して、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実が告知されたことを示す証拠はないから、信用回復措置として謝罪広告が必要であるとまでは認められない。
したがって、原告の請求のうち、被告による謝罪広告を求める部分については理由がない。
五 以上の次第であるから、原告の請求は主文掲記の限度で理由がある。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 杜下弘記)
裁判官 榎戸道也は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 森義之
<以下省略>